メインコンテンツへスキップ

古典情報

前のレッスンと同様に、このレッスンも古典情報の議論から始めます。 ここでも確率的な記述と量子的な記述は数学的に類似しており、古典情報という親しみやすい場面で数学の働き方を認識することは、量子情報がなぜそのような形で記述されるのかを理解する上で大いに役立ちます。

デカルト積による古典状態

ごく基本的なところから、複数システムの古典状態について見ていきましょう。 簡単のため、まず2つのシステムについて説明し、その後2つ以上のシステムへ一般化します。

正確に述べると、X\mathsf{X} を古典状態集合が Σ\Sigma であるシステムとし、 Y\mathsf{Y} を古典状態集合が Γ\Gamma である第2のシステムとします。 これらの集合を古典状態集合と呼んでいることから、Σ\SigmaΓ\Gamma はどちらも有限かつ空でないという前提があります。 Σ=Γ\Sigma = \Gamma となる場合もありますが、必ずしもそうである必要はなく、いずれにしても明確さを保つためにこれらの集合を別の名前で参照することが便利です。

さて、2つのシステム X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} を、X\mathsf{X} を左、Y\mathsf{Y} を右に並べて配置することを想像してください。 必要に応じて、これら2つのシステムを1つのシステムとみなすことができ、好みに応じて (X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) または XY\mathsf{XY} と表記します。 この複合システム (X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) についての自然な問いは、「その古典状態は何か?」というものです。

答えは、(X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) の古典状態集合は Σ\SigmaΓ\Gammaデカルト積であり、次のように定義される集合です。

Σ×Γ={(a,b):aΣ  and  bΓ}. \Sigma\times\Gamma = \bigl\{(a,b)\,:\,a\in\Sigma\;\text{and}\;b\in\Gamma\bigr\}.

平たく言えば、デカルト積は、ある集合の要素と別の集合の要素を1つの集合の1つの要素として組み合わせて見る、というアイデアを捉えた数学的概念です。 今の場合、(X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) が古典状態 (a,b)Σ×Γ(a,b)\in\Sigma\times\Gamma にあるとは、X\mathsf{X} が古典状態 aΣa\in\Sigma にあり、Y\mathsf{Y} が古典状態 bΓb\in\Gamma にあることを意味します。 逆に、X\mathsf{X} の古典状態が aΣa\in\Sigma であり Y\mathsf{Y} の古典状態が bΓb\in\Gamma であれば、複合システム (X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) の古典状態は (a,b)(a,b) となります。

2つ以上のシステムに対しては、状況は自然に一般化されます。 任意の正整数 nn に対して、X1,,Xn\mathsf{X}_1,\ldots,\mathsf{X}_n がそれぞれ古典状態集合 Σ1,,Σn\Sigma_1,\ldots,\Sigma_n を持つシステムであるとすると、nn(X1,,Xn)(\mathsf{X}_1,\ldots,\mathsf{X}_n) を1つの複合システムとして見たときの古典状態集合はデカルト積

Σ1××Σn={(a1,,an):a1Σ1,,anΣn}. \Sigma_1\times\cdots\times\Sigma_n = \bigl\{(a_1,\ldots,a_n)\,:\, a_1\in\Sigma_1,\:\ldots,\:a_n\in\Sigma_n\bigr\}.

となります。

もちろん、システムの名前は自由に選んで構いません。また、順序も自由に決めることができます。 特に、上と同様に nn 個のシステムがある場合、それらを X0,,Xn1\mathsf{X}_{0},\ldots,\mathsf{X}_{n-1} と名付け、右から左へ並べると、複合システムは (Xn1,,X0)(\mathsf{X}_{n-1},\ldots,\mathsf{X}_0) となります。 関連する古典状態と古典状態集合の命名パターンに従えば、この複合システムの古典状態として

(an1,,a0)Σn1××Σ0(a_{n-1},\ldots,a_0) \in \Sigma_{n-1}\times \cdots \times \Sigma_0

と書くことになります。 実際、これはQiskitが複数の量子ビットを命名する際に使用する順序の慣例です。 次のレッスンでこの慣例と量子回路への接続について説明しますが、慣れるためにここから使い始めます。

(an1,,a0)(a_{n-1},\ldots,a_0) の形の古典状態は、特に古典状態集合 Σ0,,Σn1\Sigma_0,\ldots,\Sigma_{n-1}シンボル文字の集合に関連付けられているごく典型的な場面では、簡潔さのために文字列 an1a0a_{n-1}\cdots a_0 として書くと便利です。 この文脈では、文字列を形成するシンボルの集合を指すためにアルファベットという用語が一般的に使われますが、アルファベットの数学的定義は古典状態集合の定義とまったく同じで、有限かつ空でない集合です。

例えば、X0,,X9\mathsf{X}_0,\ldots,\mathsf{X}_9 がビットであり、これらのシステムの古典状態集合がすべて同じであるとします。

Σ0=Σ1==Σ9={0,1} \Sigma_0 = \Sigma_1 = \cdots = \Sigma_9 = \{0,1\}

複合システム (X9,,X0)(\mathsf{X}_9,\ldots,\mathsf{X}_0) の古典状態は 210=10242^{10} = 1024 個あり、これらは集合

Σ9×Σ8××Σ0={0,1}10. \Sigma_9\times\Sigma_8\times\cdots\times\Sigma_0 = \{0,1\}^{10}.

の要素です。

文字列として書くと、これらの古典状態は次のようになります。

000000000000000000010000000010000000001100000001001111111111 \begin{array}{c} 0000000000\\ 0000000001\\ 0000000010\\ 0000000011\\ 0000000100\\ \vdots\\[1mm] 1111111111 \end{array}

例えば古典状態 00000001100000000110 では、X1\mathsf{X}_1X2\mathsf{X}_2 が状態 11 にあり、他のすべてのシステムは状態 00 にあることがわかります。

確率的状態

前のレッスンで述べたように、確率的状態はシステムの各古典状態に確率を対応させるものです。 したがって、複数システムを1つのシステムとして集合的に見たときの確率的状態は、個々のシステムの古典状態集合のデカルト積の各要素に確率を対応させます。

例えば、X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} がどちらもビットであり、対応する古典状態集合がそれぞれ Σ={0,1}\Sigma = \{0,1\}Γ={0,1}\Gamma = \{0,1\} であるとします。 以下は、組 (X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) の確率的状態の例です。

Pr((X,Y)=(0,0))=1/2Pr((X,Y)=(0,1))=0Pr((X,Y)=(1,0))=0Pr((X,Y)=(1,1))=1/2 \begin{aligned} \operatorname{Pr}\bigl( (\mathsf{X},\mathsf{Y}) = (0,0)\bigr) & = 1/2 \\[2mm] \operatorname{Pr}\bigl( (\mathsf{X},\mathsf{Y}) = (0,1)\bigr) & = 0\\[2mm] \operatorname{Pr}\bigl( (\mathsf{X},\mathsf{Y}) = (1,0)\bigr) & = 0\\[2mm] \operatorname{Pr}\bigl( (\mathsf{X},\mathsf{Y}) = (1,1)\bigr) & = 1/2 \end{aligned}

この確率的状態では、X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} はどちらもランダムビットであり、それぞれ確率 1/21/200、確率 1/21/211 となりますが、2つのビットの古典状態は常に一致します。 これは2つのシステム間の相関の例です。

デカルト積の状態集合の順序付け

前のレッスンで述べたように、システムの確率的状態は確率ベクトルで表すことができます。 特に、ベクトルの各エントリはシステムが取り得る古典状態にある確率を表し、エントリと古典状態集合の間の対応関係が選ばれているという理解があります。

このような対応関係を選ぶことは、事実上、古典状態の順序付けを決めることを意味します。これは多くの場合、自然に決まるか標準的な慣例によって決まります。 例えば、二値アルファベット {0,1}\{0,1\} は自然に 00 が先、11 が後という順序を持つため、ビットの確率的状態を表す確率ベクトルの最初のエントリは状態 00 にある確率、2番目のエントリは状態 11 にある確率です。

これは複数システムの文脈でも変わりませんが、決定すべきことがあります。 複数のシステムをまとめて1つのシステムとして見たときの古典状態集合は、個々のシステムの古典状態集合のデカルト積であるため、デカルト積の要素をどのように順序付けるかを決めなければなりません。

これを行うための簡単な慣例に従います。すなわち、個々の古典状態集合に対してすでに設定されている順序をそのまま用い、デカルト積の要素を辞書式順序で並べます。 別の言い方をすると、各 nn 組のエントリ(同等に、各文字列のシンボル)は、左から右へ重要度が下がるとして扱います。 例えば、この慣例に従うと、デカルト積 {1,2,3}×{0,1}\{1,2,3\}\times\{0,1\} は次のように順序付けられます。

(1,0),  (1,1),  (2,0),  (2,1),  (3,0),  (3,1). (1,0),\; (1,1),\; (2,0),\; (2,1),\; (3,0),\; (3,1).

nn 組を文字列として書いてこのように順序付けると、{0,1}×{0,1}\{0,1\}\times\{0,1\}00,01,10,1100, 01, 10, 11 と順序付けられ、{0,1}10\{0,1\}^{10} がレッスンの前半で書いたように順序付けられる、といったおなじみのパターンが現れます。 別の例として、{0,1,,9}×{0,1,,9}\{0, 1, \dots, 9\} \times \{0, 1, \dots, 9\} を文字列の集合として見ると、0000 から 9999 までの2桁の数字を数値順に並べたものが得られます。 これは明らかに偶然ではありません。 私たちの十進数体系はまさにこの種の辞書式順序を使用しており、ここで辞書式という言葉は、文字に加えて数字も含む広い意味で理解されるべきです。

上記の2つのビットの例に戻ると、先ほど説明した確率的状態は次の確率ベクトルで表されます。エントリには明確さのために明示的なラベルを付けています。

(120012)状態 00 にある確率状態 01 にある確率状態 10 にある確率状態 11 にある確率(1) \begin{pmatrix} \frac{1}{2}\\[1mm] 0\\[1mm] 0\\[1mm] \frac{1}{2} \end{pmatrix} \begin{array}{l} \leftarrow \text{状態 00 にある確率}\\[1mm] \leftarrow \text{状態 01 にある確率}\\[1mm] \leftarrow \text{状態 10 にある確率}\\[1mm] \leftarrow \text{状態 11 にある確率} \end{array} \tag{1}

2つのシステムの独立性

2つのシステムの確率的状態の特別な種類として、2つのシステムが独立である場合があります。 直感的に言えば、一方のシステムの古典状態を知っても他方に関連する確率に影響を与えない場合、2つのシステムは独立です。 つまり、一方のシステムがどの古典状態にあるかを知っても、他方の古典状態について何ら情報が得られないということです。

この概念を正確に定義するために、再び X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} がそれぞれ古典状態集合 Σ\SigmaΓ\Gamma を持つシステムであると仮定します。 与えられた確率的状態に関して、2つのシステムが独立であるとは、すべての aΣa\in\SigmabΓb\in\Gamma の選択に対して

Pr((X,Y)=(a,b))=Pr(X=a)Pr(Y=b)(2) \operatorname{Pr}((\mathsf{X},\mathsf{Y}) = (a,b)) = \operatorname{Pr}(\mathsf{X} = a) \operatorname{Pr}(\mathsf{Y} = b) \tag{2}

が成り立つことをいいます。

この条件を確率ベクトルで表すために、(X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) の確率的状態がDirac記法で

(a,b)Σ×Γpabab.\sum_{(a,b) \in \Sigma\times\Gamma} p_{ab} \vert a b\rangle.

と書かれる確率ベクトルで記述されると仮定します。

独立性の条件 (2)(2) は、X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} の古典状態に関する確率をそれぞれ表す2つの確率ベクトル

ϕ=aΣqaaandψ=bΓrbb,(3)\vert \phi \rangle = \sum_{a\in\Sigma} q_a \vert a \rangle \quad\text{and}\quad \vert \psi \rangle = \sum_{b\in\Gamma} r_b \vert b \rangle, \tag{3}

が存在して、すべての aΣa\in\SigmabΓb\in\Gamma に対して

pab=qarb(4)p_{ab} = q_a r_b \tag{4}

が成り立つことと同値です。

例えば、ベクトル

1600+11201+1210+1411 \frac{1}{6} \vert 00 \rangle + \frac{1}{12} \vert 01 \rangle + \frac{1}{2} \vert 10 \rangle + \frac{1}{4} \vert 11 \rangle

で表される1対のビット (X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) の確率的状態では、X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} は独立です。 具体的には、確率ベクトル

ϕ=140+341andψ=230+131. \vert \phi \rangle = \frac{1}{4} \vert 0 \rangle + \frac{3}{4} \vert 1 \rangle \quad\text{and}\quad \vert \psi \rangle = \frac{2}{3} \vert 0 \rangle + \frac{1}{3} \vert 1 \rangle.

に対して独立性に必要な条件が満たされます。

例えば、0000 状態の確率を合わせるには 16=14×23\frac{1}{6} = \frac{1}{4} \times \frac{2}{3} が必要であり、実際にこれは成り立ちます。他のエントリも同様に確認できます。

一方、確率的状態 (1)(1)

1200+1211,(5) \frac{1}{2} \vert 00 \rangle + \frac{1}{2} \vert 11 \rangle, \tag{5}

と書けますが、これはシステム X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} の独立性を表しません。 その簡単な論拠は以下の通りです。

上の式 (3)(3) のような確率ベクトル ϕ\vert \phi\rangleψ\vert \psi \rangle が存在して、すべての aabb の選択に対して条件 (4)(4) が満たされると仮定します。 すると必然的に

q0r1=Pr((X,Y)=(0,1))=0. q_0 r_1 = \operatorname{Pr}\bigl((\mathsf{X},\mathsf{Y}) = (0,1)\bigr) = 0.

となります。

これは q0=0q_0 = 0 または r1=0r_1 = 0 であることを意味します。なぜなら、両方がゼロでなければ積 q0r1q_0 r_1 もゼロでないからです。 このことから、q0r0=0q_0 r_0 = 0q0=0q_0 = 0 の場合)または q1r1=0q_1 r_1 = 0r1=0r_1 = 0 の場合)という結論が導かれます。 しかし、q0r0=1/2q_0 r_0 = 1/2 かつ q1r1=1/2q_1 r_1 = 1/2 でなければならないため、どちらの等式も成り立ちません。 したがって、独立性に必要な性質を満たすベクトル ϕ\vert\phi\rangleψ\vert\psi\rangle は存在しません。

2つのシステム間の独立性を定義したところで、相関の意味を定義できます。それは独立性の欠如です。 例えば、ベクトル (5)(5) で表される確率的状態の2つのビットは独立でないため、定義により相関があります。

ベクトルのテンソル積

今述べた独立性の条件は、テンソル積という概念を通じて簡潔に表現できます。 テンソル積は非常に一般的な概念であり、かなり抽象的に定義してさまざまな数学的構造に適用できますが、今の場合は単純で具体的な定義を採用できます。

2つのベクトル

ϕ=aΣαaaandψ=bΓβbb,\vert \phi \rangle = \sum_{a\in\Sigma} \alpha_a \vert a \rangle \quad\text{and}\quad \vert \psi \rangle = \sum_{b\in\Gamma} \beta_b \vert b \rangle,

が与えられたとき、テンソル積 ϕψ\vert \phi \rangle \otimes \vert \psi \rangle は次のように定義されるベクトルです。

ϕψ=(a,b)Σ×Γαaβbab. \vert \phi \rangle \otimes \vert \psi \rangle = \sum_{(a,b)\in\Sigma\times\Gamma} \alpha_a \beta_b \vert ab\rangle.

この新しいベクトルのエントリはデカルト積 Σ×Γ\Sigma\times\Gamma の要素に対応しており、前の式では文字列として書かれています。 同等に、ベクトル π=ϕψ\vert \pi \rangle = \vert \phi \rangle \otimes \vert \psi \rangle はすべての aΣa\in\SigmabΓb\in\Gamma に対して

abπ=aϕbψ\langle ab \vert \pi \rangle = \langle a \vert \phi \rangle \langle b \vert \psi \rangle

が成り立つという式によって定義されます。

これで独立性の条件を言い換えることができます。 確率ベクトル π\vert \pi \rangle で表される確率的状態にある複合システム (X,Y)(\mathsf{X}, \mathsf{Y}) において、π\vert\pi\rangle が各サブシステム X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} 上の確率ベクトル ϕ\vert \phi \rangleψ\vert \psi \rangle のテンソル積

π=ϕψ \vert \pi \rangle = \vert \phi \rangle \otimes \vert \psi \rangle

として得られる場合、システム X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} は独立です。 この場合、π\vert \pi \rangle積状態または積ベクトルと呼ばれます。

ケットのテンソル積を取る際には \otimes 記号を省略し、ϕψ\vert \phi \rangle \otimes \vert \psi \rangle の代わりに ϕψ\vert \phi \rangle \vert \psi \rangle と書くことがよくあります。 この慣例は、テンソル積がこの文脈では最も自然でデフォルトの2つのベクトルの積の取り方であるという考えを表しています。 あまり一般的ではありませんが、ϕψ\vert \phi\otimes\psi\rangle という表記も使われることがあります。

デカルト積の要素の順序付けについて前述した辞書式の慣例を使うと、2つの列ベクトルのテンソル積について次の仕様が得られます。

(α1αm)(β1βk)=(α1β1α1βkα2β1α2βkαmβ1αmβk) \begin{pmatrix} \alpha_1\\ \vdots\\ \alpha_m \end{pmatrix} \otimes \begin{pmatrix} \beta_1\\ \vdots\\ \beta_k \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} \alpha_1 \beta_1\\ \vdots\\ \alpha_1 \beta_k\\ \alpha_2 \beta_1\\ \vdots\\ \alpha_2 \beta_k\\ \vdots\\ \alpha_m \beta_1\\ \vdots\\ \alpha_m \beta_k \end{pmatrix}

重要な補足として、標準基底ベクトルのテンソル積について次の式に注目してください。

ab=ab.\vert a \rangle \otimes \vert b \rangle = \vert ab \rangle.

文字列の代わりに順序対 (a,b)(a,b) として書くこともでき、その場合 ab=(a,b)\vert a \rangle \otimes \vert b \rangle = \vert (a,b) \rangle となります。 ただし、この場合はかっこを省略して ab=a,b\vert a \rangle \otimes \vert b \rangle = \vert a,b \rangle と書くことがより一般的です。 これは数学全般でよく見られることで、明確さを加えたり曖昧さを解消したりしないかっこはしばしば単純に省略されます。

2つのベクトルのテンソル積には、それが双線形であるという重要な性質があります。つまり、もう一方の引数を固定すると、2つの引数それぞれについて個別に線形です。 この性質は次の式で表されます。

1. 第1引数に関する線形性:

(ϕ1+ϕ2)ψ=ϕ1ψ+ϕ2ψ(αϕ)ψ=α(ϕψ)\begin{aligned} \bigl(\vert\phi_1\rangle + \vert\phi_2\rangle\bigr)\otimes \vert\psi\rangle & = \vert\phi_1\rangle \otimes \vert\psi\rangle + \vert\phi_2\rangle \otimes \vert\psi\rangle \\[1mm] \bigl(\alpha \vert \phi \rangle\bigr) \otimes \vert \psi \rangle & = \alpha \bigl(\vert \phi \rangle \otimes \vert \psi \rangle \bigr) \end{aligned}

2. 第2引数に関する線形性:

ϕ(ψ1+ψ2)=ϕψ1+ϕψ2ϕ(αψ)=α(ϕψ)\begin{aligned} \vert \phi \rangle \otimes \bigl(\vert \psi_1 \rangle + \vert \psi_2 \rangle \bigr) & = \vert \phi \rangle \otimes \vert \psi_1 \rangle + \vert \phi \rangle \otimes \vert \psi_2 \rangle\\[1mm] \vert \phi \rangle \otimes \bigl(\alpha \vert \psi \rangle \bigr) & = \alpha \bigl(\vert\phi\rangle\otimes\vert\psi\rangle\bigr) \end{aligned}

これらの式ペアのそれぞれ2番目の式を考えると、スカラーはテンソル積の中を「自由に動く」ことがわかります。

(αϕ)ψ=ϕ(αψ)=α(ϕψ).\bigl(\alpha \vert \phi \rangle\bigr) \otimes \vert \psi \rangle = \vert \phi \rangle \otimes \bigl(\alpha \vert \psi \rangle \bigr) = \alpha \bigl(\vert \phi \rangle \otimes \vert \psi \rangle \bigr).

したがって、このベクトルを指すのに単に αϕψ\alpha\vert\phi\rangle\otimes\vert\psi\rangle、または αϕψ\alpha\vert\phi\rangle\vert\psi \rangle、あるいは αϕψ\alpha\vert\phi\otimes\psi\rangle と書いても曖昧さはありません。

3つ以上のシステムに対する独立性とテンソル積

独立性とテンソル積の概念は、3つ以上のシステムに対して直接的に一般化されます。 X0,,Xn1\mathsf{X}_0,\ldots,\mathsf{X}_{n-1} がそれぞれ古典状態集合 Σ0,,Σn1\Sigma_0,\ldots,\Sigma_{n-1} を持つシステムであるとき、複合システム (Xn1,,X0)(\mathsf{X}_{n-1},\ldots,\mathsf{X}_0) の確率的状態が、X0,,Xn1\mathsf{X}_0,\ldots,\mathsf{X}_{n-1} の確率的状態を表す確率ベクトル ϕ0,,ϕn1\vert \phi_0 \rangle,\ldots,\vert \phi_{n-1}\rangle に対して

ψ=ϕn1ϕ0 \vert \psi \rangle = \vert \phi_{n-1} \rangle \otimes \cdots \otimes \vert \phi_0 \rangle

の形を取るとき、その確率的状態は積状態です。 ここで、テンソル積の定義は自然に一般化されます。ベクトル

ψ=ϕn1ϕ0\vert \psi \rangle = \vert \phi_{n-1} \rangle \otimes \cdots \otimes \vert \phi_0 \rangle

は、すべての a0Σ0,an1Σn1a_0\in\Sigma_0, \ldots a_{n-1}\in\Sigma_{n-1} に対して

an1a0ψ=an1ϕn1a0ϕ0 \langle a_{n-1} \cdots a_0 \vert \psi \rangle = \langle a_{n-1} \vert \phi_{n-1} \rangle \cdots \langle a_0 \vert \phi_0 \rangle

が成り立つという式によって定義されます。

3つ以上のベクトルのテンソル積を定義する別の同等の方法は、2つのベクトルのテンソル積を使って再帰的に定義することです。

ϕn1ϕ0=ϕn1(ϕn2ϕ0). \vert \phi_{n-1} \rangle \otimes \cdots \otimes \vert \phi_0 \rangle = \vert \phi_{n-1} \rangle \otimes \bigl( \vert \phi_{n-2} \rangle \otimes \cdots \otimes \vert \phi_0 \rangle \bigr).

2つのベクトルのテンソル積と同様に、3つ以上のベクトルのテンソル積は、他のすべての引数を固定するとそれぞれの引数について個別に線形です。 この場合、3つ以上のベクトルのテンソル積は多重線形であると言います。

2つのシステムの場合と同様に、X0,,Xn1\mathsf{X}_0,\ldots,\mathsf{X}_{n-1} が積状態にあるとき、これらのシステムは独立であると言えますが、相互独立という用語がより正確です。 3つ以上のシステムに対しては、対独立性など他の独立性の概念もあり、それらは興味深く重要ですが、このコースの文脈では扱いません。

標準基底ベクトルのテンソル積に関する前の観察を一般化すると、任意の正整数 nn と任意の古典状態 a0,,an1a_0,\ldots,a_{n-1} に対して

an1a0=an1a0.\vert a_{n-1} \rangle \otimes \cdots \otimes \vert a_0 \rangle = \vert a_{n-1} \cdots a_0 \rangle.

が成り立ちます。

確率的状態の測定

次に、複数システムの確率的状態の測定について見ていきましょう。 複数のシステムをまとめて1つのシステムとして見ることを選択すると、すべてのシステムが測定される場合の測定の仕組みの仕様がただちに得られます。

例えば、2つのビット (X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) の確率的状態が確率ベクトル

1200+1211, \frac{1}{2} \vert 00 \rangle + \frac{1}{2} \vert 11 \rangle,

で記述されるとき、結果 0000X\mathsf{X} の測定で 00Y\mathsf{Y} の測定で 00)は確率 1/21/2 で得られ、結果 1111 も確率 1/21/2 で得られます。 どちらの場合も、確率ベクトルによる知識の記述を適宜更新し、確率的状態はそれぞれ 00|00\rangle または 11|11\rangle となります。

ただし、すべてのシステムを測定するのではなく、一部のシステムだけを測定することも選択できます。 これにより、測定されたシステムそれぞれの測定結果が得られ、また(一般的に)測定しなかった残りのシステムに対する知識にも影響を与えます。

この仕組みを説明するために、2つのシステムのうち一方だけを測定する場合に焦点を当てます。 3つ以上のシステムのうち適切な部分集合を測定する、より一般的な状況は、測定されるシステムをまとめて1つのシステムとし、測定されないシステムをまとめて2番目のシステムとして見れば、本質的に2つのシステムの場合に帰着されます。

正確に言うと、X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} がそれぞれ古典状態集合 Σ\SigmaΓ\Gamma を持つシステムであり、2つのシステムがある確率的状態にあるとします。 X\mathsf{X} だけを測定して Y\mathsf{Y} には何もしない場合を考えます。 Y\mathsf{Y} だけを測定して X\mathsf{X} に何もしない場合は対称に扱われます。

まず、X\mathsf{X} だけを測定したときに特定の古典状態 aΣa\in\Sigma を観測する確率は、Y\mathsf{Y} も測定されるという仮定の下での確率と一致しなければなりません。 すなわち、

Pr(X=a)=bΓPr((X,Y)=(a,b)). \operatorname{Pr}(\mathsf{X} = a) = \sum_{b\in\Gamma} \operatorname{Pr}\bigl( (\mathsf{X},\mathsf{Y}) = (a,b) \bigr).

が成り立たなければなりません。

これはいわゆる X\mathsf{X} のみの(周辺)確率的状態の公式です。

この公式は直感的に完全に意味をなします。なぜなら、これが誤りであるとすると何か非常に奇妙なことが起こらなければならないからです。 もしこれが誤りであれば、Y\mathsf{Y} を測定することが、Y\mathsf{Y} の実際の測定結果に関わらず、X\mathsf{X} の測定結果に関する確率に何らかの影響を与えるということになります。 Y\mathsf{Y} が例えば別の銀河のどこかといった遠い場所にある場合、これは光より速いシグナル送信を可能にすることになり、物理学の理解に基づいてこれは否定されます。 別の理解の仕方として、確率を信念の度合いを反映するものとして解釈することもできます。 他の誰かが Y\mathsf{Y} を見ることを決めるという事実だけでは X\mathsf{X} の古典状態を変えることができないため、彼らが何を見たか、あるいは見なかったかについての情報なしに、X\mathsf{X} の状態についての信念はその結果として変わるべきではありません。

さて、X\mathsf{X} だけが測定され Y\mathsf{Y} は測定されないという前提の下では、Y\mathsf{Y} の古典状態についてまだ不確実性がある場合があります。 そのため、(X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) の確率的状態の記述を、ある aΣa\in\SigmabΓb\in\Gamma の選択に対して ab\vert ab\rangle に更新するのではなく、Y\mathsf{Y} に関するこの不確実性が適切に反映されるように記述を更新しなければなりません。

次の条件付き確率の公式がこの不確実性を反映しています。

Pr(Y=bX=a)=Pr((X,Y)=(a,b))Pr(X=a) \operatorname{Pr}(\mathsf{Y} = b \,\vert\, \mathsf{X} = a) = \frac{ \operatorname{Pr}\bigl((\mathsf{X},\mathsf{Y}) = (a,b)\bigr) }{ \operatorname{Pr}(\mathsf{X} = a) }

ここで、Pr(Y=bX=a)\operatorname{Pr}(\mathsf{Y} = b \,\vert\, \mathsf{X} = a) という式は、X=a\mathsf{X} = a という条件の下での(またはX=a\mathsf{X} = a が与えられた場合の)Y=b\mathsf{Y} = b の確率を表します。 技術的には、Pr(X=a)\operatorname{Pr}(\mathsf{X}=a) がゼロでない場合にのみこの式は意味をなします。Pr(X=a)=0\operatorname{Pr}(\mathsf{X}=a) = 0 の場合、ゼロで割ることになり 00\frac{0}{0} という不定形が得られます。 ただし、これは問題ではありません。なぜなら、aa に関連する確率がゼロであれば、X\mathsf{X} の測定結果として aa を得ることは決してないため、この可能性を心配する必要はないからです。

これらの公式を確率ベクトルで表すために、(X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) の複合確率的状態を記述する確率ベクトル π\vert \pi \rangle を考えます。

π=(a,b)Σ×Γpabab \vert\pi\rangle = \sum_{(a,b)\in\Sigma\times\Gamma} p_{ab} \vert ab\rangle

X\mathsf{X} だけを測定すると、可能な各結果 aΣa\in\Sigma は確率

Pr(X=a)=cΓpac. \operatorname{Pr}(\mathsf{X} = a) = \sum_{c\in\Gamma} p_{ac}.

で得られます。

X\mathsf{X} 単独の確率的状態を表すベクトルは次のようになります。

aΣ(cΓpac)a. \sum_{a\in\Sigma} \biggl(\sum_{c\in\Gamma} p_{ac}\biggr) \vert a\rangle.

X\mathsf{X} の測定で特定の結果 aΣa\in\Sigma が得られると、Y\mathsf{Y} の確率的状態は条件付き確率の公式に従って更新され、次の確率ベクトルで表されます。

ψa=bΓpabbcΓpac. \vert \psi_a \rangle = \frac{\sum_{b\in\Gamma}p_{ab}\vert b\rangle}{\sum_{c\in\Gamma} p_{ac}}.

X\mathsf{X} の測定が古典状態 aa を結果として与えた場合、複合システム (X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) の確率的状態の記述を aψa\vert a\rangle \otimes \vert\psi_a\rangle に更新します。

この ψa\vert\psi_a\rangle の定義の一つの見方は、ベクトル bΓpabb\sum_{b\in\Gamma} p_{ab} \vert b\rangle正規化として捉えることです。このベクトルの各エントリの和で割ることで確率ベクトルを得ます。 この正規化は、X\mathsf{X} の測定が結果 aa を与えるという事象への条件付けを効果的に反映しています。

具体的な例として、X\mathsf{X} の古典状態集合が Σ={0,1}\Sigma = \{0,1\}Y\mathsf{Y} の古典状態集合が Γ={1,2,3}\Gamma = \{1,2,3\} であり、(X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) の確率的状態が

π=120,1+1120,3+1121,1+161,2+161,3. \vert \pi \rangle = \frac{1}{2} \vert 0,1 \rangle + \frac{1}{12} \vert 0,3 \rangle + \frac{1}{12} \vert 1,1 \rangle + \frac{1}{6} \vert 1,2 \rangle + \frac{1}{6} \vert 1,3 \rangle.

であるとします。

目標は、システム X\mathsf{X} が測定されると仮定して、2つの可能な結果(0011)の確率を求め、各結果に対して Y\mathsf{Y} の結果として生じる確率的状態を計算することです。

テンソル積の双線形性、特に第2引数に関して線形であるという事実を利用すると、ベクトル π\vert \pi \rangle を次のように書き直すことができます。

π=0(121+1123)+1(1121+162+163). \vert \pi \rangle = \vert 0\rangle \otimes \biggl( \frac{1}{2} \vert 1 \rangle + \frac{1}{12} \vert 3 \rangle\biggr) + \vert 1\rangle \otimes \biggl( \frac{1}{12} \vert 1 \rangle + \frac{1}{6} \vert 2\rangle + \frac{1}{6} \vert 3 \rangle\biggr).

言葉で言えば、(測定される側の)第1システムの異なる標準基底ベクトルを取り出し、元のベクトルのエントリのうち第1システムの対応する古典状態と一致するものを選んで第2システムの標準基底ベクトルの線形結合を作り、それぞれとテンソル積を取るという操作をしています。 少し考えると、これは出発点となるベクトルが何であっても常に可能であることがわかります。

このようにして確率ベクトルを表すと、第1システムを測定した効果を分析しやすくなります。 2つの結果の確率は、かっこ内の確率を合計することで得られます。

Pr(X=0)=12+112=712Pr(X=1)=112+16+16=512 \begin{aligned} \operatorname{Pr}(\mathsf{X} = 0) & = \frac{1}{2} + \frac{1}{12} = \frac{7}{12}\\[3mm] \operatorname{Pr}(\mathsf{X} = 1) & = \frac{1}{12} + \frac{1}{6} + \frac{1}{6} = \frac{5}{12} \end{aligned}

これらの確率の合計は1であり、期待通りです。これは計算の有用なチェックになります。

そして、各可能な結果を条件とした Y\mathsf{Y} の確率的状態は、かっこ内のベクトルを正規化することで求められます。 つまり、これらのベクトルを先ほど計算した対応する確率で割り、確率ベクトルにします。

したがって、X\mathsf{X}00 であるという条件の下で、Y\mathsf{Y} の確率的状態は

121+1123712=671+173, \frac{\frac{1}{2} \vert 1 \rangle + \frac{1}{12} \vert 3 \rangle}{\frac{7}{12}} = \frac{6}{7} \vert 1 \rangle + \frac{1}{7} \vert 3 \rangle,

となり、X\mathsf{X} の測定が 11 であるという条件の下で、Y\mathsf{Y} の確率的状態は

1121+162+163512=151+252+253. \frac{\frac{1}{12} \vert 1 \rangle + \frac{1}{6} \vert 2\rangle + \frac{1}{6} \vert 3 \rangle}{\frac{5}{12}} = \frac{1}{5} \vert 1 \rangle + \frac{2}{5} \vert 2 \rangle + \frac{2}{5} \vert 3 \rangle.

となります。

確率的状態に対する操作

複数システムの古典情報についての議論を締めくくるにあたり、確率的状態にある複数システムへの操作について考えます。 前と同じ考え方に従い、複数のシステムをまとめて単一の複合システムとして見て、これがどのように機能するかを前のレッスンで確認できます。

2つのシステム X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} があるという典型的な設定に戻り、複合システム (X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) に対する古典的な操作を考えます。 前のレッスンと上記の議論に基づいて、そのような操作はデカルト積 Σ×Γ\Sigma\times\Gamma の要素でインデックス付けされた行と列を持つ確率行列で表されると結論づけられます。

例えば、X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} がビットであり、次の説明を持つ操作を考えます。

操作

X=1\mathsf{X} = 1 の場合、Y\mathsf{Y} に NOT 操作を行います。
それ以外は何もしません。

これは制御 NOT 操作と呼ばれる決定論的な操作であり、X\mathsf{X}ターゲットビット Y\mathsf{Y} に NOT 操作を適用するかどうかを決定する制御ビットです。 この操作の行列表現は次のとおりです。

(1000010000010010).\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0\\[2mm] 0 & 1 & 0 & 0\\[2mm] 0 & 0 & 0 & 1\\[2mm] 0 & 0 & 1 & 0 \end{pmatrix}.

標準基底状態に対するその作用は次のとおりです。

0000010110111110\begin{aligned} \vert 00 \rangle & \mapsto \vert 00 \rangle\\ \vert 01 \rangle & \mapsto \vert 01 \rangle\\ \vert 10 \rangle & \mapsto \vert 11 \rangle\\ \vert 11 \rangle & \mapsto \vert 10 \rangle \end{aligned}

X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} の役割を入れ替えて、Y\mathsf{Y} を制御ビット、X\mathsf{X} をターゲットビットとすると、操作の行列表現は次のようになります。

(1000000100100100)\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0\\[2mm] 0 & 0 & 0 & 1\\[2mm] 0 & 0 & 1 & 0\\[2mm] 0 & 1 & 0 & 0 \end{pmatrix}

そして、標準基底状態に対するその作用は次のようになります。

0000011110101101\begin{aligned} \vert 00 \rangle & \mapsto \vert 00 \rangle\\ \vert 01 \rangle & \mapsto \vert 11 \rangle\\ \vert 10 \rangle & \mapsto \vert 10 \rangle\\ \vert 11 \rangle & \mapsto \vert 01 \rangle \end{aligned}

別の例として、次の説明を持つ操作があります。

操作

次の2つの操作のいずれかをそれぞれ確率 1/21/2 で実行します。

  1. Y\mathsf{Y}X\mathsf{X} と等しくします。
  2. X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} と等しくします。

この操作の行列表現は次のとおりです。

(11212000000000012121)=12(1100000000000011)+12(1010000000000101).\begin{pmatrix} 1 & \frac{1}{2} & \frac{1}{2} & 0\\[2mm] 0 & 0 & 0 & 0\\[2mm] 0 & 0 & 0 & 0\\[2mm] 0 & \frac{1}{2} & \frac{1}{2} & 1 \end{pmatrix} = \frac{1}{2} \begin{pmatrix} 1 & 1 & 0 & 0\\[2mm] 0 & 0 & 0 & 0\\[2mm] 0 & 0 & 0 & 0\\[2mm] 0 & 0 & 1 & 1 \end{pmatrix} + \frac{1}{2} \begin{pmatrix} 1 & 0 & 1 & 0\\[2mm] 0 & 0 & 0 & 0\\[2mm] 0 & 0 & 0 & 0\\[2mm] 0 & 1 & 0 & 1 \end{pmatrix}.

標準基底ベクトルに対するこの操作の作用は次のとおりです。

0000011200+1211101200+12111111\begin{aligned} \vert 00 \rangle & \mapsto \vert 00 \rangle\\[1mm] \vert 01 \rangle & \mapsto \frac{1}{2} \vert 00 \rangle + \frac{1}{2}\vert 11\rangle\\[3mm] \vert 10 \rangle & \mapsto \frac{1}{2} \vert 00 \rangle + \frac{1}{2}\vert 11\rangle\\[2mm] \vert 11 \rangle & \mapsto \vert 11 \rangle \end{aligned}

これらの例では、単純に2つのシステムをまとめて1つのシステムとして見て、前のレッスンと同様に進めています。

任意の数のシステムに対しても同様のことができます。 例えば、3つのビットがあり、3つのビットを 88 を法として増分する場合を想像してください。これはつまり、3つのビットを二進法を使った 00 から 77 の数として解釈し、11 を加え、88 で割った余りを取るということです。 この操作は次のように表すことができます。

001000+010001+011010+100011+101100+110101+111110+000111.\begin{aligned} & \vert 001 \rangle \langle 000 \vert + \vert 010 \rangle \langle 001 \vert + \vert 011 \rangle \langle 010 \vert + \vert 100 \rangle \langle 011 \vert\\[1mm] & \quad + \vert 101 \rangle \langle 100 \vert + \vert 110 \rangle \langle 101 \vert + \vert 111 \rangle \langle 110 \vert + \vert 000 \rangle \langle 111 \vert. \end{aligned}

別の表し方として

k=07(k+1)mod8k,\sum_{k = 0}^{7} \vert (k+1) \bmod 8 \rangle \langle k \vert,

のように表すこともできます(ケット内の 00 から 77 の数字はそれらの数の3ビット二進符号化を指すと合意した場合)。 3番目の選択肢は、この操作を行列として表すことです。

(0000000110000000010000000010000000010000000010000000010000000010)\begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1\\ 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 0 \end{pmatrix}

独立した操作

複数のシステムがあり、それぞれのシステムに対して独立に異なる操作を行う場合を考えましょう。

例として、古典的状態集合 Σ\SigmaΓ\Gamma を持つ2つのシステム X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} という通常の設定を取り上げます。X\mathsf{X} に対してある操作を行い、それとは完全に独立に Y\mathsf{Y} に対して別の操作を行うとしましょう。 前のレッスンで学んだように、これらの操作は確率的行列で表されます。具体的には、X\mathsf{X} に対する操作を行列 MM で、Y\mathsf{Y} に対する操作を行列 NN で表すとします。 MM の行と列のインデックスは Σ\Sigma の要素に対応し、同様に NN の行と列のインデックスは Γ\Gamma の要素に対応します。

自然な疑問として次のことが浮かびます。X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} を合わせて複合システム (X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) として見たとき、2つの操作を合わせた作用を表す行列はどのようなものになるでしょうか? この問いに答えるには、まず行列のテンソル積を導入する必要があります。これはベクトルのテンソル積と同様に、類似した形で定義されます。

行列のテンソル積

行列

M=a,bΣαabab M = \sum_{a,b\in\Sigma} \alpha_{ab} \vert a\rangle \langle b\vert

N=c,dΓβcdcd N = \sum_{c,d\in\Gamma} \beta_{cd} \vert c\rangle \langle d\vert

のテンソル積 MNM\otimes N は次の行列です。

MN=a,bΣc,dΓαabβcdacbd M \otimes N = \sum_{a,b\in\Sigma} \sum_{c,d\in\Gamma} \alpha_{ab} \beta_{cd} \vert ac \rangle \langle bd \vert

同等の定義として、MMNN のテンソル積は、すべての a,bΣa,b\in\Sigma および c,dΓc,d\in\Gamma の選択に対して

acMNbd=aMbcNd\langle ac \vert M \otimes N \vert bd\rangle = \langle a \vert M \vert b\rangle \langle c \vert N \vert d\rangle

が成り立つという条件によっても定義できます。

MNM\otimes N を別の等価な方法で説明すると、ϕ\vert\phi\rangle のインデックスが Σ\Sigma の要素に対応し、ψ\vert\psi\rangle のインデックスが Γ\Gamma に対応するという条件のもとで、すべての可能なベクトル ϕ\vert\phi\rangleψ\vert\psi\rangle の選択に対して

(MN)(ϕψ)=(Mϕ)(Nψ) (M \otimes N) \bigl( \vert \phi \rangle \otimes \vert \psi \rangle \bigr) = \bigl(M \vert\phi\rangle\bigr) \otimes \bigl(N \vert\psi\rangle\bigr)

を満たす唯一の行列です。

デカルト積の要素の順序付けについて先に述べた規則に従い、2つの行列のテンソル積を明示的に次のように書くこともできます。

(α11α1mαm1αmm)(β11β1kβk1βkk)=(α11β11α11β1kα1mβ11α1mβ1kα11βk1α11βkkα1mβk1α1mβkkαm1β11αm1β1kαmmβ11αmmβ1kαm1βk1αm1βkkαmmβk1αmmβkk)\begin{gathered} \begin{pmatrix} \alpha_{11} & \cdots & \alpha_{1m} \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ \alpha_{m1} & \cdots & \alpha_{mm} \end{pmatrix} \otimes \begin{pmatrix} \beta_{11} & \cdots & \beta_{1k} \\ \vdots & \ddots & \vdots\\ \beta_{k1} & \cdots & \beta_{kk} \end{pmatrix} \hspace{6cm}\\[8mm] \hspace{1cm} = \begin{pmatrix} \alpha_{11}\beta_{11} & \cdots & \alpha_{11}\beta_{1k} & & \alpha_{1m}\beta_{11} & \cdots & \alpha_{1m}\beta_{1k} \\ \vdots & \ddots & \vdots & \hspace{2mm}\cdots\hspace{2mm} & \vdots & \ddots & \vdots \\ \alpha_{11}\beta_{k1} & \cdots & \alpha_{11}\beta_{kk} & & \alpha_{1m}\beta_{k1} & \cdots & \alpha_{1m}\beta_{kk} \\[2mm] & \vdots & & \ddots & & \vdots & \\[2mm] \alpha_{m1}\beta_{11} & \cdots & \alpha_{m1}\beta_{1k} & & \alpha_{mm}\beta_{11} & \cdots & \alpha_{mm}\beta_{1k} \\ \vdots & \ddots & \vdots & \hspace{2mm}\cdots\hspace{2mm} & \vdots & \ddots & \vdots \\ \alpha_{m1}\beta_{k1} & \cdots & \alpha_{m1}\beta_{kk} & & \alpha_{mm}\beta_{k1} & \cdots & \alpha_{mm}\beta_{kk} \end{pmatrix} \end{gathered}

3つ以上の行列のテンソル積も同様に定義されます。 M0,,Mn1M_0, \ldots, M_{n-1} がそれぞれ古典的状態集合 Σ0,,Σn1\Sigma_0,\ldots,\Sigma_{n-1} にインデックスが対応する行列のとき、テンソル積 Mn1M0M_{n-1}\otimes\cdots\otimes M_0 は、すべての古典的状態 a0,b0Σ0,,an1,bn1Σn1a_0,b_0\in\Sigma_0,\ldots,a_{n-1},b_{n-1}\in\Sigma_{n-1} の選択に対して

an1a0Mn1M0bn1b0=an1Mn1bn1a0M0b0\langle a_{n-1}\cdots a_0 \vert M_{n-1}\otimes\cdots\otimes M_0 \vert b_{n-1}\cdots b_0\rangle = \langle a_{n-1} \vert M_{n-1} \vert b_{n-1} \rangle \cdots\langle a_0 \vert M_0 \vert b_0 \rangle

が成り立つという条件によって定義されます。 あるいは、3つ以上の行列のテンソル積は、ベクトルの場合と同様に、2つの行列のテンソル積を用いて再帰的に定義することもできます。

行列のテンソル積は乗法的であると言われることがあります。これは、積 M0N0,,Mn1Nn1M_0 N_0, \ldots, M_{n-1} N_{n-1} が意味をなす限り、任意の行列 M0,,Mn1M_0,\ldots,M_{n-1} および N0,Nn1N_0\ldots,N_{n-1} の選択に対して

(Mn1M0)(Nn1N0)=(Mn1Nn1)(M0N0) (M_{n-1}\otimes\cdots\otimes M_0)(N_{n-1}\otimes\cdots\otimes N_0) = (M_{n-1} N_{n-1})\otimes\cdots\otimes (M_0 N_0)

が常に成り立つためです。

独立した操作(続き)

先に提起した問いに答えましょう。MMX\mathsf{X} に対する確率的操作、NNY\mathsf{Y} に対する確率的操作であり、2つの操作が独立に行われる場合、複合システム (X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) に対する結果の操作はテンソル積 MNM\otimes N です。

したがって、確率的状態と確率的操作の両方において、テンソル積は独立性を表します。 2つのシステム X\mathsf{X}Y\mathsf{Y} がそれぞれ独立に確率的状態 ϕ\vert\phi\rangleψ\vert\psi\rangle にある場合、複合システム (X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) は確率的状態 ϕψ\vert\phi\rangle\otimes\vert\psi\rangle にあります。 また、2つのシステムに対して確率的操作 MMNN を独立に適用する場合、複合システム (X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) に対する結果の作用は操作 MNM\otimes N によって記述されます。

例を見てみましょう。前のレッスンで取り上げた1ビットへの確率的操作を思い出してください。ビットの古典的状態が 00 であればそのまま放置し、古典的状態が 11 であれば確率 1/21/2 で 0 に反転させるというものでした。 この操作は次の行列で表されることを確認しました。

(112012). \begin{pmatrix} 1 & \frac{1}{2}\\[1mm] 0 & \frac{1}{2} \end{pmatrix}.

この操作をビット X\mathsf{X} に対して行い、(独立に)NOT 操作を別のビット Y\mathsf{Y} に対して行う場合、複合システム (X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) に対する合同操作の行列表現は次のようになります。

(112012)(0110)=(01012101200001200120). \begin{pmatrix} 1 & \frac{1}{2}\\[1mm] 0 & \frac{1}{2} \end{pmatrix} \otimes \begin{pmatrix} 0 & 1\\[1mm] 1 & 0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 & \frac{1}{2} \\[1mm] 1 & 0 & \frac{1}{2} & 0 \\[1mm] 0 & 0 & 0 & \frac{1}{2} \\[1mm] 0 & 0 & \frac{1}{2} & 0 \end{pmatrix}.

目視で確認すると、これは確率的行列です。 これは常に成り立ちます。2つ以上の確率的行列のテンソル積は常に確率的です。

よく見られる状況として、あるシステムに対して1つの操作を行い、別のシステムには何もしないというケースがあります。 そのような場合も同じ方法を用いますが、何もしないことは単位行列で表されることを念頭に置いておきます。 例えば、ビット X\mathsf{X}00 状態にリセットし、Y\mathsf{Y} には何もしない場合、複合システム (X,Y)(\mathsf{X},\mathsf{Y}) に対する確率的(実際には決定論的)操作は次の行列で表されます。

(1100)(1001)=(1010010100000000). \begin{pmatrix} 1 & 1\\[1mm] 0 & 0 \end{pmatrix} \otimes \begin{pmatrix} 1 & 0\\[1mm] 0 & 1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 1 & 0 \\[1mm] 0 & 1 & 0 & 1 \\[1mm] 0 & 0 & 0 & 0 \\[1mm] 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}.